遠隔地の不動産相続
地方にある不動産の相続問題は、現代社会における深刻な問題の一つです。遠隔地にある空き家や土地を相続した場合、その管理や処分に頭を悩ませる人々はとても多いです。
これは日本全国で見られる問題で、相続した土地や家屋が「負の遺産」になるケースが増えています。負の遺産というのは、相続した不動産が管理や維持に手間と費用がかかる一方で、相続人にとってその価値がほとんどない、あるいは負担の方が大きいと感じられる不動産のことです。
例えば、かつて繁栄した町が衰退して、人口が減少した地域では空き家や利用していない土地が増えて、その管理や処分に困っている人がたくさんいらっしゃいます。この問題の要因の一つは相続人が遠隔地に住んでいるということです。相続人が現地に住んでいない場合、相続した不動産の現状把握や管理が難しくなります。また、相続した不動産が遠隔地にある場合、その販売も難しくなることが多いです。地元の不動産市場が低迷している場合、相続した不動産を適正な価格で売却することは困難で、結果として相続人にとっての負担が増すことになります。
このような状況に対して相続人としては様々な対策が考えられます。一つは空き家を解体して、土地だけを残すという方法です。こうすれば、建物の維持管理費用を削減し、土地だけを管理することで負担を軽減できるというものです。 しかし、この方法は必ずしも適切な解決策とは言えません。それは解体費用が高額であり、解体後の土地の価値がそれを上回ることが少ないからです。また、相続した土地や建物を国や自治体に譲渡するという方法もあります。国は2023(令和5)年4月27日から「相続土地国庫帰属制度」をスタートさせ、相続した土地の所有権を引き取ることで、適切な管理を行うことを目指しています。しかし、この制度もまた、相続人にとってはハードルが高いです。この制度を利用するためには、建物がないこと、境界が明確で権利関係の争いがないこと、そして「10年分の管理費」として数十万円の負担金が必要となるなど、満たすべき条件が多いからです。
相続した不動産が「負の遺産」にならないためには、相続人が適切な知識を持つことが重要です。また相続が発生した際には、早期に適切な手段を講じ、不動産の価値を維持することが求められます。相続した不動産が「負の遺産」になる可能性を早期に認識し、可能な限り早く手放すことも重要な選択肢の一つです。そのためには、不動産の現状と市場価値を正確に把握し、適切な価格で売却できるタイミングを逃さないことが必要です。
とは言っても、実際には不動産の価格や市場状況を正確に把握することは難しいものです。特に、遠隔地の不動産の場合、現地の市場状況を把握するのは一層困難です。そのため、専門的な知識を持つ不動産業者や専門家に相談することが有効な手段となります。
空き家の問題は、所有者の情報が不明確であることも一因となっています。所有者が亡くなった後、相続人が不明であったり、相続登記がなされていない場合、その不動産は管理の対象から外れ、放置されることになります。これを解決するために2024(令和6)年の4月から相続登記の義務化、そして2026(令和8)年4月から住所変更登記を義務化するなど制度改革が進められています。
さらに空き家を利用するための新たなアプローチも必要です。例えば、空き家をリフォームして賃貸物件として活用するという手段もあるでしょう。しかし、これには新規参入のリスクを背負う必要があります。また地元の不動産会社でも、賃料の低い物件を仲介ではなく自社で買取って、貸主として賃貸物件を運用したり、リノベーションして売主として再販する動きが見られます。
遠隔地の不動産相続問題は簡単な解決策が見当たらない複雑な問題です。しかし、相続人が適切な知識を持ち、早期に適切な対策を講じることで、その負担を軽減することは可能です。また国や自治体、不動産業界も、この問題の解決に向けてさまざまな取り組みを進めています。これらの取り組みが実を結んで、遠隔地の不動産相続問題が解決されれば良いと思っています。
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編集後記
始めに書きましたとおり、国が相続した土地を引き取ってくれる相続土地国庫帰属制度は2023(令和5)年4月27日から始まっています。制度が始まって約7ヶ月経った11月末現在、速報値ですが全国で1349件の申請(事前の相談件数は約19,000件あったそうです)があり、そのうち国庫に帰属した総数は48件です。まだ審査中のものもあると思うので一概には言えませんが、負の遺産を解消するための施策としてはもう少し検討の余地がありそうです。先日、相続した北区にあるマンションの一部屋を売却したいとご相談がありました。お客様から被相続人(亡くなった方)の資料を見せていただいたところ、マンションに関する資料の他に北海道の土地も所有していたことが分かりました。その土地は公図も存在しない原野でした。相続土地国庫帰属制度を利用しようと考えたのですが、前述のとおり境界が明確でなければならないので断念。引き取りをする不動産会社を探したのですが、安い会社で50万円(所有者が支払う金額です)以上の金額を提示されたのです。他の方法を思いつかないので、結局費用を支払って引き取ってもらうしかないのか、と諦めかけていた時、運よく、その土地のある村が「寄付なら受け付ける」と言ってくれて、引き取ってくれたのです。自治体がこのような公図も測量図もない不動産を引き取るというのはほとんどなく、奇跡的なケースです。このようなことを全国で制度化できれば負の遺産の問題は大幅に改善すると思うのですが、いかがでしょう。