トウリハウジング通信 2023年3月号

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共有制度の見直し

調べても所有者の所在が分からない、いわゆる所有者不明土地の発生を予防するために、2021(令和3)年に民法・不動産登記法などの一部改正が成立しました。その中の1つで、すでにニュースでも取り上げられている相続登記の申請の義務化は2024(令和6)年4月から始まりますが、法律が変わるのはそれだけではありません。

相続登記の申請の義務化より1年早い今年の4月1日から共有制度に関する改正民法が施行されます。

共有の物を変更する場合、現在の法律では、共有者全員の同意が必要です。変更といっても簡単な変更から大きく形状を変えるなど、かなり幅があると思うのですが、現在の法律では、例えば砂利敷きの私道をアスファルト舗装する場合でも共有者全員の同意が必要になってしまいます。これは調査をしても所在が分からない共有者がいる場合も同様なので、その場合は法律上、変更ができないことになります。今回はこのような不具合を解消するための改正です。

不動産の賃貸と売買に関連した例をご紹介します。


*賃貸の例*

被相続人(亡くなった方)が所有していた空き家をA,B,Cの3人が法定相続分3分の1ずつを相続しました。AとBはその空き家を賃貸にしたいのですが、Cが音信不通で連絡が取れません。

これまでこのようなケースでは、共有の不動産を賃貸することについて、果たして共有者全員の同意が必要なのか、ということについて取り決めがありませんでした。それが今回の改正で明文化されました。

建物を貸すときには3年を超えない短期の賃借権の設定なら、持分の半分以上の所有者が決めれば可能になります。つまり、この例ではABの2人が決めれば賃貸することができるようになります。しかし普通建物賃貸借契約(通常の賃貸借契約です)だと仮に3年以内の賃貸借契約を締結した場合、その期間が満期になっても契約を終了させることができない(更新)ので、普通建物賃貸借契約の場合は共有者全員の同意が必要になってしまいます。Cの同意が得られないのであれば3年以内の定期建物賃貸借契約にしなければなりません。

そこで今回の改正では、所在不明の共有者Cがいる場合でも、C以外の共有者ABの同意があって、かつ裁判所(その土地の所在する地方裁判所です)の許可を得ることができれば、共有者全員の同意が必要な3年を超える普通建物賃貸借契約ができるようになります。


 

*売買の例*

A,B,Cの3人で共有している土地がありました。近くの不動産会社から、その土地を建売用地として購入したいと打診があったので、AとBは売却したいと思っているのですが、Cの行方が分からず連絡が取れません。

この場合、現在の法律では、裁判所を通じて共有状態の解消をする「共有物分割訴訟」をして、土地を分割してからABの所有する部分を売却する、或いは行方不明になっているCの財産を管理する不在者財産管理人を裁判所に選任してもらうなどが考えられます。しかしどちらも時間と費用がかかりますし、手続きも簡単ではありません。

これを今回の改正で所在不明の共有者Cの持分を取得したいと考える共有者A(またはB)が裁判所に申し立てをして、所定の手続きを経て裁判所の許可を得ることができれば、Cの持分を取得できるようになります。

ただしこの場合はCの持分の時価相当額の金銭を供託する必要があります。今回のケースでは持分を取得する目的が、不動産会社に売却することなので、CからA(またはB)へ所有権を移転させるよりも、Cから買主である不動産会社へ直接所有権を移転した方が簡単です。

そこで今回の改正では裁判所の決定によって、申し立てをした共有者に所在不明の共有者Cの土地の持分を不動産会社に譲渡する権限を与える制度ができます。この制度を利用して共有者A(またはB)がCの土地の持分を売却する権限を裁判所から与えられれば、自分の持分とCの持分を一緒に売却することができるようになります。

ただし、この制度を利用する共有者はCの持分の時価相当額の金銭の供託をしなければならないし(供託をしないと裁判所からCの持分売却の権限を与えられません)、裁判が確定したときから原則として2ヶ月以内に売買契約をしなければなりません。裁判所には買主がある程度決まった状態で申し立てをした方が良さそうです。

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編集後記

今回は、所在が不明の人がいることによって、不動産の管理などができない状態を解消しようということで民法が改正されました。しかし、相続などで共有者が増えていった不動産の管理や賃貸をする場合、所在が不明の共有者だけではなく、所在ははっきりしていても住まいが共有する不動産から遠く離れていたり、共有者間の人的関係が希薄になったりして、連絡をしても不動産の管理や賃貸することに対して、賛成や反対の意思表示をしない、その不動産について関心を持たない共有者がいる場合があります。

このようなケースについても今回の法律改正で明確化されました。

共有者が申し立てをして裁判所の決定を受ければ、関心を持たない共有者を除いた共有者の持分の半分以上の同意があれば、管理に関する決定をすることができるというものです。ただし、この場合は関心を持たないと言っても連絡は取れるので、決定できるのは管理に関することだけであって、その不動産を売却するとか抵当権を設定するなど関心を持たない共有者の共有持分がなくなってしまうような行為はできません。

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